国家公務員からパブリックアフェアーズ人材へ 転職経験者インタビュー

国家公務員からパブリックアフェアーズ人材へ
転職経験者インタビュー

今、国や自治体などの政府機関である「官」と、民間企業やNPOなどの団体、市民の「民」をつなぐ仕事が注目されています。

社会の変化に伴って、先端技術を社会に実装するための規制改革やビジネスによる社会課題の解決などの重要性がさらに高まった結果、公共分野では新技術の研究開発や社会実装に取り組む企業の知見が求められる一方、民間企業においても行政や非営利団体などとの関係構築や協働が求められています。

そして、企業においてこのような公共分野との対話や交渉を担当する「パブリックアフェアーズ人材」の需要も高まっています。今回、国家公務員からスマートモビリティサービス事業を手がけるベンチャー企業、BOLDLYのパブリックアフェアーズ担当へ転職した中島さんにお話をお伺いしました。

中島真之介さんプロフィール
BOLDLY株式会社(市場創生部渉外課長)。経済産業省にて国際関係やエネルギー分野のプロジェクトに携わる。その後「pubcari 」を利用して、2020年6月、BOLDLY株式会社へ入社し現職。名古屋商科大学大学院経営学修士(EMBA)

経済産業省で得られた達成感と決意

pubcari:転職を決意するまでの経緯をお聞かせください。

中島真之介(以下、中島):専門学校を卒業した後、国の政策に携わる大きな仕事をしたいと思い経済産業省に入省しました。経産省では、3年目から国際関係を担当する部署で勤務していました。

日本とロシアとの間の貿易投資促進を担当していた時期には、頻繁に首脳会談や閣僚級会談が開催されていたのですが、会談でのアジェンダ調整や発言メモの作成、そして政治家の方々や幹部への説明に携わるなど貴重な経験を積むことが出来ました。

4年ほどその仕事を続けた後、石油・天然ガス課に異動し、数兆円規模のLNG(液化天然ガス)生産プロジェクトへの国による出資決定など、ビジネスに近い業務に携わりました。業務の中で、自らリスクを取り事業を立ち上げていく企業の方々と一緒に仕事をさせてもらうなかで、ビジネスへの関心が高まりました。

しかし、一流のビジネスマンを相手に仕事ができることに満足する一方で、自分自身のビジネススキルの不足を痛感しました。そのため、ビジネスについて一から学び直したいと考え、経営学修士号(MBA)を取得するために名古屋商科大学大学院に入学することを決めました。

大学院では、経営戦略やマーケティングといったハードスキルだけではなく、ビジネスマンとしてのマインドセットや組織論といったソフトスキルを学ぶことができました。また、「ケースメソッド」という議論を中心とした授業を受講するなかで、先生や先輩、同期から様々な刺激をもらいました。その経験を踏まえ、経産省職員として企業活動をサポートする立場から、自分自身がプレーヤーとしてビジネスの力で社会課題を解決していきたいと決意しました。

転職への不安

pubcari:転職を考えてから、どのような準備をされましたか。

中島:まず自分が将来何を成し遂げたいのか考えるところから始めました。最初は、日本の経済や社会のために役に立つことをしたいという漠然とした思いはあったものの、それが具体化していなかった。なので、職場の先輩や大学院の同期など様々な人に話を聞くことにしました。でも、話を聞けば聞くほど、本当にやりたいことが分からなくなってしまったのが現実でした。また、経産省において得難い経験をしたという達成感が少なからずあったので、それを捨て去って新しい会社に行くということに不安はありました。

pubcari:今の会社と出会うまでの転職活動はどのような内容でしたか。

中島:自分自身の経験や知識が活かせる企業を探していましたが、国家公務員から民間企業に転職した事例が少ないためか、求人自体が多くありませんでした。しかし、パブリック・アフェアーズ専門の求人媒体であるマカイラの「pucari(パブキャリ)」に登録したところ、公務員出身者を求める求人を多く紹介頂き、そのなかからBOLDLYを選びました。

BOLDLYを選んだのは、自動運転で地域公共交通の課題を解決するというミッションがあることと、100年に一度の変革期と呼ばれる自動車産業の変革をリードしていたからです。未開拓かつ社会・産業の観点から重要性が高い事業に携われることにやりがいを感じました。

公務員の経験が活きたベンチャー企業

pubcari:経済産業省での経験がBOLDLYで活きたことはありましたか。

中島:私自身は経産省で自動車業界の担当をしていなかったので、業界知識自体はゼロでしたが、法律や予算の成立プロセス、意思決定の仕組みなど、公務員の基本知識といえる部分が現職での業務に活きています。

新規事業の開発においては、既存の法令が障壁となることは多くありますが、そのときにどの法令のどこをどう改正すればよいのか、そしてそれを所管官庁や有識者の方々に理解して頂くためにはどのように対話していけばよいのか、これは法令や政策形成に携わったことのある公務員であれば肌感覚として理解できることだと思います。業界は異なっていても、公務員として培った能力や経験を活かすことは可能だと思っています。

私達が取り組む自動運転について言えば、道路交通法において車内に運転者が存在することが前提となっていますが、ビジネスサイドからみれば車内無人を実現しなければ省人化によるコスト削減が達成できず、収益化は限りなく困難と言わざるを得ない状況です。つまり、この規制の緩和こそがビジネスモデルの実現のために避けては通れない道といえます。当然、規制緩和にあたっては、安全性が大前提となってきますが、安全性・収益性・社会的受容性など様々な観点があるなかでバランスの取れた制度となるよう民間企業から声を上げていく必要があります。

昨年、内閣府規制改革推進会議投資等WGに招待頂き、弊社社長から河野大臣に対して自動運転分野の規制改革についてプレゼンを行いました。そのときの要望資料を作成したのですが、河野大臣の強いリーダーシップのおかげで、私達の要望事項が中央官庁のなかで速やかに議論され、半年後にはほぼ全ての要望事項が実現されました。

自動運転の社会実装の現場から吸い上げた法的課題を取り上げ、それを規制改革に繋げていくことは、責任が大きい一方でやりがいのある仕事だと思います。

pubcari:公務員時代と現職を比べて、ギャップなどはありますか。

中島:よくある話ですが、経産省にいた頃はとにかく残業が多かったので、肉体的・精神的なストレスに対する耐性がついていました。現職では、働く場所と時間は個人で決められる環境なので活かす場面は多くはないですが、どんなに忙しくても「あの時と比べたら大丈夫だ」と思えるのは強みだと思います。

一方で、文化の違いを感じたのは、意思決定の方法でした。経産省時代は事ある毎にWordで一枚の資料にまとめて各幹部に説明していくというプロセスがありました。しかし現職では、スピード感が重視されるため、意思決定者である社長に直接口頭で確認を取ることが求められます。日常業務で文章を書く力が求められない一方で、ベンチャー企業で文章を書ける人材は貴重ですので、学会誌への寄稿や役所へ提出する資料作成など活躍の場はあると思います。

パブリックアフェアーズ人材を目指す方へ

pubcari:最後に、転職を考える公務員の方々にアドバイスがあれば教えてください。

中島:転職後の今となって考えてみると、自身の担当業務に関することだけでなく、所属する部局や省庁、そして霞が関全体で話題になっている政策にアンテナを張ることが大事だと思います。世の中のトレンドは各省庁の新政策に凝縮していると思いますので、そういった政策を日頃から頭に入れるようにしておくと、どの業界に行っても役に立つと思います。

また、ビジネスの世界では、米国で主流とされてきた「株主至上主義」から、地域や社会、環境といった広義の利害関係者に対する貢献を謳う「ステークホルダー資本主義」という考え方が広まってきています。これは、企業が利潤だけを追い求めるのでなく、ビジネスの土台となる地域社会や環境に対する責任を果たすことで持続可能な社会を実現しようという考えで、今話題となっているSDGsもその流れを汲んでいます。こういった潮流のなかで、行政の知識や経験を求めている民間企業は増えていると考えています。

pubcari:働くセクターは変わったものの、中島さんが経済産業省に入省した当時の思いは変わらないのでしょうか。

中島:変わっていないと思います。経産省が担っている日本経済・産業の発展というミッションはとても重要で困難であるが故に、役所だけの力で解決するのは難しいと感じています。だからこそ、ベンチャー企業との協業が必要になってくると考えています。

一般的に中央官庁とベンチャー企業は文化や働き方などの点で全く異なる組織と見られていますが、そのミッションは共通する部分もあると思います。ベンチャー企業が新しいビジネスを生み出すときには規制の壁が存在し、そこにこそ、政策と規制のスペシャリストである公務員が輝く場があると思います。

同じ産業でも政策担当者として見る世界と、一企業の社員として見る世界は大きく異なります。最近では、民間企業での経験を糧に中央官庁に戻り活躍している方もおり、官民の人材交流が増えてきている印象です。お互いの垣根を超えて人材交流が進むことで、新たなビジネスが生み出されていくと考えています。

pubcari:本日はありがとうございました!

*取材は2021年4月に行いました。

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